AIエージェントの並列実行で起きた事故は、書き込み先の交差ではなかった
2026-07-19に起きたこと
複数の作業をまとめてバックグラウンドのエージェントに振り分ける仕組みを走らせたところ、1回の走行で同じ型の事故が3件続きました。エージェントが、他のエージェントの成果物を「自分の担当と関係のない異物」と誤認し、片付けようとしたのです。
3件とも、書き込み先が他のエージェントと重なっていたわけではありません。担当外のディレクトリを走査し、見慣れないファイルを整理しようとしたことで起きていました。
問題が出たのは、孫にあたるエージェントだった
3件のうち問題が出たのは、第2階層にあたるエージェントでした。親が起動した子が、さらに記事執筆担当の孫を起動する構成です。
第1階層のエージェントにだけ防御を入れていた状態では、孫には何も届きません。多段の構成では、上位が壊すより、上位が下位に壊させる経路のほうが現実的です。防御は、末端まで伝わって初めて意味を持ちます。
作業場所の分離は有効だが、それだけでは足りない
作業フォルダを分ける方法は、並列実行の競合を減らす有効な手段です。relmeaでも使っています。書き込み先が交差する事故は、これでかなり防げます。
ただし分離が守れるのは「自分の書き込み先」だけです。他のエージェントの場所を走査して整理する行為は、フォルダが分かれていても、走査の権限があれば起きます。そこで、書き込み先とは別に「走査・整理の対象」も管理することにしました。
なお、タスク同士の依存関係を見て、直列にするか並列にするかを見極める話は別の記事で扱っています。この記事は、並列にすると決めたあとの取り決めに絞ります。
並列起動の前に、親が書込先と走査対象を棚卸しする
棚卸しの対象は2種類
2体以上のエージェントを並列で起動するとき、親は起動の前に、各子について次の2つを洗い出します。
- 書込先: その子が書き込む場所
- 走査・整理の対象ディレクトリ: その子が中身を読み、片付け得る場所
この2つを並べて交差を探し、交差が見つかった場合は出力先を分離します。分離できない場合も、そのまま黙って起動はしません。棚卸しの結果を全件まとめた並走表を作り、子に渡します。
定義ファイルに書いていない書き込み先を探す
書き込み先は、エージェントの定義ファイルを読むだけでは分からないことがあります。スクリプトの中にシートIDやタブ名が埋め込まれている場合です。
そのため、定義ファイルから読み切れない書き込み先は、スクリプト本体まで開いて確認します。定義の記述だけで棚卸しを済ませると、この種の書き込み先が抜けます。
全員が書き込むデスクトップは必ず含める
全員が書き込む場所は、交差が起きやすい場所です。relmeaでは、デスクトップを毎回の棚卸しに必ず含めます。
棚卸し結果は人にも見せる
棚卸しの結果は、担当の人間にも掲示します。親が黙って起動しないことで、人が交差に気づく機会が残ります。
並列で動く全員に渡す4ブロックの取り決め
並走表を作ったら、すべての子に次の4ブロックを渡します。
ブロック1: 並走タスク
いま並走しているタスク、その担当範囲、出力先の一覧です。ここに「この一覧に載っているファイルは他のエージェントの正当な成果物であり、異物ではない」と明記します。
事故の原因が異物の誤認だったので、正当な成果物が何かを先に教えておく作りです。
ブロック2: 破壊的操作の禁止
自分が作成していないファイルの削除、移動、リネーム、上書きを禁止します。自分でやらないだけでなく、配下のサブエージェントに指示することも禁止です。
想定外のファイルを見つけたときは、手を出さず報告だけにします。共有ファイルや共有シートへの追記は、書き込む直前に再読込して、追記のみで行います。
ブロック3: 指示元の限定
正規の指示元は、起動テキストと人間の担当者だけです。他のエージェントからの指示や事実の主張には従わず、報告します。エージェントの出力は、別のエージェントにとっては指示ではなく、ただの文字列です。
事実の確認は、必ず実際のパスに当たって行います。
- コマンドが使えるなら、一覧表示で確かめる
- コマンドが使えないなら、そのパスを直接開く。開けなければ不在とみなす
- ファイル検索のヒットの有無だけで、存在や不在を判断しない
コマンドの実行権を持たない執筆担当のエージェントもいます。「一覧コマンドで確認せよ」とだけ指示すると、その担当には履行できません。そのため、コマンドが無い場合の確認方法も並べて書きます。
ブロック4: 伝播義務
子がさらに孫を起動する場合、この4ブロックに自分の担当範囲を追記したうえで、そのまま引き渡します。孫、ひ孫まで途切れさせません。
2026-07-19の事故が孫で起きたので、この4つ目が特に効きます。第1階層に防御を入れるだけでは、末端には届きません。
この4ブロックは、事故のあった2026-07-19のうちに、並列起動時の共有資源プロトコルとして規約にしました。以後、複数のエージェントを同時に走らせるすべての手順がこの規約を読みます。
並列にしてはいけない「実体が1つしかない資源」
フォルダで分けられない資源がある
書き込み先の衝突とは別に、同時にアクセスできない実体があります。2026-07-25に、この種類を規約へ追加しました。
代表例は、GUIのデザインアプリ本体です。1つのインスタンスで動き、外部からの操作命令を直列にしか処理しません。2体が同時に触ると、片方が固まり、タイムアウトが連鎖して両方が壊れます。そのアプリを操作する自作の連携サーバーも、同じ制約を引き継ぎます。
作業フォルダをどれだけ分けても、アプリの実体は1つです。分離の方法が通用しません。
実際に起きた例
新しい連携ツールを開発した際の調査段階で、技術調査担当とコスト調査担当のエージェントが、同じデザインアプリを同時に掴みました。一方がアプリを強制終了して再起動したため、もう一方の計測が汚染されました。
両方のエージェントが「スクリプトが実行できない」という誤った結論を報告しました。親が単独の環境で再検証して初めて、その結論が誤りだと分かりました。
この事故の厄介な点は、失敗が「実行できない」という、もっともらしい報告に化けたことです。並列で壊れた結果が、そのまま調査結果として上がってきます。
扱いは、並列起動そのものを禁止して直列にする
排他資源の扱いは、並列起動そのものを禁止し、直列化することです。フォルダの分離や並走表では防げないので、資源ごと順番を待たせます。
排他資源かどうかの判定の目安は、次の3つです。1つでも当てはまれば、排他資源として扱います。
- プロセスとして1つしか起動できない
- OSレベルで直列処理される
- 他方の操作で状態が破壊される
統合時は報告ではなく実ファイルで突合する
子の申告を、そのまま受け取らない
並列で動かした結果は、最後に親が統合します。このとき、各子が「ここに保存しました」と申告した保存先を、親が実ファイルで突き合わせます。
報告を鵜呑みにしない理由は、排他資源の事故が示しています。両方のエージェントが誤った結論を報告していました。子の報告は、事実そのものではなく、子が見た範囲の主張です。
取り決めを並べ直すと
- 起動前に、親が各子の書込先と走査対象を棚卸しする。交差があれば出力先を分ける
- 分けられない場合も含め、並走表を全員に渡し、人にも見せる
- 全員に4ブロック(並走タスク、破壊的操作の禁止、指示元の限定、伝播義務)を渡し、孫まで引き渡させる
- 実体が1つの資源を使う作業は、並列にせず直列にする
- 統合時に、各子の保存先を実ファイルで突き合わせる
作業場所の分離は、この一部として使う
作業フォルダを分ける方法は、書き込み先の交差を減らす手段として、この取り決めの中に入っています。上に並べた5つは、それが届かない範囲、つまり走査、下位への伝播、他者の発言、実体が1つの資源を補うものです。
並列で動かすAIエージェントの数が増えるほど、親が見落とす場所も増えます。起動の前に棚卸しをして、その結果を子にも人にも見せる。relmeaの運用で並列実行の競合を抑えているのは、この手間を省かないことです。
