「売上は伸びたのに利益が残らない」が起きる構造

固定費と変動費が同時に上がっている

2024年6月1日から、楽天市場の基本出店料(月額固定費)が全プランで約3割引き上げられました。2008年に現在の出店プラン体系になってから16年間据え置かれていた月額固定費の、初めての改定です。がんばれ!プランは月額19,500円から25,000円へ、スタンダードプランは50,000円から65,000円へ(いずれも税別)といった変更でした。楽天グループは背景として、物価高・人件費・電気代・システム管理費などの高騰を挙げています(出典:日本ネット経済新聞ネットショップ担当者フォーラム)。

固定費は月額として目に見えるので、値上げがあれば気づきます。問題は、同時に上がっている変動費のほうです。変動費は売上と一緒に増えるため、売上が伸びている局面では、増えていること自体が正常に見えてしまいます。

モールに支払う費用は一つではない

楽天市場の場合、店舗が支払う費用はシステム利用料だけではありません。楽天ポイント原資(購入代金の1.0%)、安全性・利便性向上のためのシステム利用料、楽天スーパーアフィリエイト(成果発生時に売上の2.6〜5.2%)などが積み上がり、各種手数料を合計すると売上に対しておおむね10〜15%程度になるという試算が一般に示されています。正確な率はプラン・決済手段・売上規模で変わるため、自店の数字は各モールの最新の料金表と実際の請求明細で確認してください。

ここにRPP広告のようなクリック課金型の販促費が乗ります。RPP広告は楽天市場の検索結果に連動して商品を上位表示するクリック課金型の広告で、月商100万円規模の店舗では月5〜15万円程度を見込むのが現実的とされています(参考:Nint)。

つまり、モール手数料と広告費だけで売上の2割前後が動くことがあり得ます。ここに送料と決済手数料が加わります。

平均で見ると赤字商品が隠れる

店舗全体の粗利率が仮に30%あったとしても、それは平均値です。粗利率45%の商品と、実質マイナスの商品が混ざって平均30%になっているだけかもしれません。売上が伸びているときほど、この混在は見えなくなります。全体の数字が改善しているので、内訳を疑う動機が生まれないからです。

商品別の粗利を見る目的は、細かい原価を突き止めることではありません。平均に隠れている個別の異常値を、判断できる粒度で表に出すことです。

最初に決めるのは計算式ではなく「どこまで割り付けるか」の線引き

会計上の粗利と、運用判断用の粗利は別物でよい

商品別粗利の可視化が途中で止まる最大の原因は、正確さを追いすぎることです。すべての費用を正確に商品へ配賦しようとすると、家賃・人件費・通信費・システム利用料の月額分といった、注文に紐づかない費用の按分ルールで議論が止まります。そして翌月には誰も更新しません。

運用の現場で必要なのは、税務申告に使える正確な原価計算ではありません。この商品を売り続けるか、止めるかを判断できるだけの情報です。そこで、最初に次の線引きを決めます。

  • 運用判断用の粗利には、注文1件に紐づけられる費用だけを割り付ける
  • 注文に紐づかない固定費は、割り付けず別枠に置く
  • 別枠の固定費は、商品別ではなく店舗全体・月単位で回収できているかだけを見る

この割り切りを最初に文章で決めておかないと、集計は永久に完成しません。

なお、ここで作る数字はあくまで社内の意思決定用です。決算・申告における原価や費用の扱いは税務上の判断を含むため、実際の会計処理は必ず税理士にご確認ください。この記事は税務上の取り扱いを断定するものではありません。

割り付ける費目・割り付けない費目

割り付ける側(注文1件に紐づけられるもの)の例です。

  • 商品原価(仕入単価)
  • モール手数料・決済手数料(注文金額に率で発生するもの)
  • ポイント原資(率で発生するもの)
  • 送料・梱包資材費
  • クーポン・値引き(注文単位で適用されたもの)
  • 広告費(商品またはキャンペーン単位で紐づけられる範囲)

割り付けない側(別枠に置くもの)の例です。

  • 出店プランの月額固定費
  • 人件費・自社の作業時間
  • 倉庫・保管費の固定部分
  • ツール・システムの月額利用料

この線引きで出る数字を、ここでは簡易粗利と呼びます。簡易粗利がマイナスの商品は、固定費を1円も回収していないどころか、売るたびに現金が減っている商品です。判断としては十分に明確です。

注文1件に費用を割り付ける実務と、4つの難所

理屈は単純ですが、実際にデータを組むと必ず詰まる箇所があります。先に難所を知っておくと、設計の手戻りが減ります。

難所1:ポイント原資は注文単位で取れないことがある

ポイントは、モール側の販促キャンペーンや会員ランク、店舗独自のポイント倍率が重なって決まります。注文明細に「この注文で店舗が負担したポイント原資」が常に単票で落ちてくるとは限りません。実務上の対処は、売上比の概算率で割り付けることです。

  • 月次の請求明細からポイント原資の総額を取る
  • その月の対象売上で割り、実効負担率を出す
  • 各注文に、その率を掛けた金額を割り付ける

倍率イベントに参加した商品とそうでない商品で負担率が違う場合は、イベント参加商品群だけ別の率を持たせます。商品1点ごとの厳密な実額にはなりませんが、赤字商品の判別には十分機能します。

難所2:広告費は商品単位に落ちない

楽天のRPPやAmazonのオートターゲティングのように、モール側が自動で配信先を決める広告は、費用が商品単位にきれいに割り当てられないことがあります。レポートの粒度がキャンペーン単位までしかない場合も多くあります。対処は2段構えです。

  • キャンペーン単位で取れる場合は、そのキャンペーン内の対象商品へ売上比で按分する
  • 按分できない場合は、商品単位の割り付けを諦め、「広告あり群」「広告なし群」の粒度に落とす

後者は粗い方法ですが、判断には使えます。広告あり群の簡易粗利が広告なし群を下回っているなら、その広告は利益を作っていないという事実が読み取れるからです。無理に商品単位へ按分して、根拠の薄い数字を精密なふりで扱うより安全です。

難所3:送料は実重量とサイズで変わる

同じ配送方法でも、地域・サイズ・重量で実額は変わります。注文ごとの実送料を配送業者の請求データから引き当てるのが最も正確ですが、突合の運用コストが高くなりがちです。現実的なのは、商品マスタに標準送料を持たせる方法です。

  • 商品ごとに、梱包後のサイズ区分と標準送料を登録する
  • 同梱注文は、代表となる最大サイズの送料を注文に割り付け、商品へは数量比などで分ける
  • 月末に、割り付けた送料合計と実際の配送費請求額を突き合わせ、乖離が大きければ標準送料を見直す

月次で答え合わせをする前提にしておくと、マスタの精度は使いながら上がっていきます。

難所4:返品・キャンセルの扱いを決めていない

返品が発生すると、売上は消えますが、送料・梱包資材・広告費は消えません。ここを決めておかないと、返品率の高い商品の粗利が実態より良く見えます。最低限、返品分の売上は差し引き、往復の送料と資材費は費用として残す扱いにします。返品率が商品によって大きく違う業種では、この処理の有無で順位が入れ替わります。

精度より更新頻度が効く理由と、粗さの許容範囲の決め方

月1で完璧より、週次で粗いほうが早い

商品別粗利の目的は、赤字商品を見つけて手を打つことです。だとすれば、価値は数字の精密さではなく、発見までの日数で決まります。

月次で精緻に集計する運用は、締めてから集計、確認を経ると、月半ばの異常に気づくのが翌月中旬になります。その間、赤字商品は売れ続けます。週次で粗い数字を見る運用なら、最悪でも1週間程度で異常に気づけます。広告費のように日々動く費目が絡む以上、発見の速さが金額に直結します。精度を上げる作業は、発見の速さを確保したうえで、余力で進めれば十分です。

粗さの許容範囲は「順位が入れ替わるか」で決める

とはいえ、粗ければ何でもよいわけではありません。許容範囲の判断基準は一つで足ります。その誤差で、商品の順位(悪い順の並び)が入れ替わるかどうかです。

  • 入れ替わらない誤差なら、判断は変わらない。放置してよい
  • 入れ替わる誤差なら、その費目の割り付け方法を精緻化する

具体的には、簡易粗利率の下位に並ぶ商品どうしの差が数ポイントしかないのに、按分方法を変えると順に入れ替わる、という状態は危険信号です。逆に、明確に赤字の商品は、按分方法を多少変えても赤字のままです。そこは精緻化しなくてよい領域です。判断に影響しない精度改善は、コストだけ増やして成果を生みません。

見る指標は3つで足りる

  • 簡易粗利額(金額の絶対値。全体への影響度がわかる)
  • 簡易粗利率(率。構造的な良し悪しがわかる)
  • 販売数量(影響の広がりがわかる)

粗利率が低くても数量が少なければ影響は限定的です。逆に、粗利率がわずかにプラスでも数量が多い商品は、変動費が少し上がるだけで一気にマイナスに転じます。金額・率・数量をセットで見るのは、この転落リスクを先に察知するためです。

赤字商品が出たあとの打ち手の順序

赤字商品が見つかったとき、いきなり販売停止に進むのは危険です。影響が小さく可逆な手から順に試します。

順序は「値上げ → 広告停止 → 同梱・セット化 → 販売停止」

  • 値上げ:最も直接的で、効果が即座に数字に出ます。競合価格と検索順位への影響を見ながら小幅から試します。粗利率が数ポイント足りないだけなら、これで解決することが多い費目構造です
  • 広告停止:広告費を止めて、それでも売れるかを見ます。広告なしで販売数量が大きく落ちないなら、広告費はそのまま利益になります。落ちる場合は、広告が売上を作っていたことの確認になります
  • 同梱・セット化:送料と梱包費は注文単位で発生するため、点数を増やすと1点あたりの負担が下がります。単価が低く送料負けしている商品は、単品販売をやめてセット構成に移すと簡易粗利がプラスに転じることがあります
  • 販売停止:上記で改善しない場合の最後の手段です。在庫処分のコストと機会損失を含めて判断します

止める前に必ず確認すること

赤字商品の中には、止めてはいけない商品が混ざっています。入口商品です。その商品自体は赤字でも、次のような役割を持っている場合、単体の粗利で切ると全体の売上が落ちます。

  • 同時購入の起点になっている(その商品を含む注文の平均単価・粗利が高い)
  • リピートの起点になっている(初回購入がその商品で、2回目以降は別の高粗利商品を買っている)
  • 検索流入の入口になっている(その商品ページ経由で他商品へ回遊している)

確認方法は難しくありません。対象商品を含む注文を抽出し、その注文全体の簡易粗利を見ます。注文単位で黒字なら、単体赤字でも成立している構成です。あわせて、その商品を初回購入した顧客のその後の購入履歴を追い、リピート起点になっていないかを見ます。

この確認を挟まずに単体の粗利だけで切ると、売上と利益の両方を落とすことがあります。商品単位の可視化と、注文単位・顧客単位の確認はセットで運用してください。

どこを自動化し、どこを人が決めるか

自動化する範囲

商品別粗利の運用が続かない理由は、判断ではなく作業の重さです。毎週、複数モールから明細をダウンロードして手作業で結合していれば、数週間で止まります。自動化に向くのは、次の3工程です。

  • データ収集:各モールの注文明細・広告レポート・請求明細を定期取得し、一箇所に集約する
  • 名寄せ:モールごとに異なる商品コードを、自社の商品マスタに突き合わせる
  • 按分計算:決めておいたルールに従い、ポイント原資・広告費・送料を注文と商品へ割り付ける

いずれも、ルールが決まっていれば毎回同じ処理です。スプレッドシートとスクリプトの範囲で十分に組めます。集計結果は、簡易粗利率の低い順に並んだ一覧として、週次で自動更新されるようにしておきます。

人が決める範囲

自動化してはいけないのは、赤字商品の処遇判断です。値上げが競合との関係で成立するか、その商品が入口商品として機能しているか、在庫を抱えたまま止めてよいか。これらは、数字だけでは決められません。仕入先との関係や季節性といった、データに現れない文脈が絡みます。

自動化の役割は、判断すべき対象を毎週リストとして差し出すところまでです。処遇を決めるのは人の仕事として残します。この分担にしておくと、仕組みが暴走せず、判断の質も落ちません。

最初の1か月で作るもの

一度にすべてを作る必要はありません。最初の1か月は、次の順で十分です。

  1. 割り付ける費目と割り付けない費目の線引きを、文章で1枚に決める
  2. 主力商品30点程度に限定して、商品マスタに仕入単価と標準送料を入れる
  3. 直近1か月の注文明細に、モール手数料・ポイント原資・送料を割り付けて簡易粗利を出す
  4. 悪い順に並べ、下位10点について入口商品かどうかを確認する
  5. 打ち手の順序に従って、1〜2点だけ実行して効果を見る

全商品を対象にするのは、この一巡が回ってからで問題ありません。対象を絞ってでも一巡させることが、続く運用と続かない運用を分けます。